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最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)46号 判決

主文

原判決を破毀する。

本件を東京高等裁判所に差戻す。

理由

辯護人位田亮次提出の上告趣意書は後記の通りである。

よって記録を調査するに、原審第二回公判調書によれば、原審は昭和二十二年十一月十日の第二回公判期日において、辯護人の一人山本立太郎の不出頭のまま、第一回の公判期日たる昭和二十二年九月二十二日以後引續き十五日以上開廷しなかったことを理由に公判手續を更新し、更めて審理を爲し、被告人の最終陳述の直前、被告人から辯護人山本立太郎の辯論を抛棄する旨の陳述があって後辯論を終結した經緯を知ることができる。しかも原審が右第二回公判期日前に同辯護人に對し該期日召喚状を送達し若しくは同辯護人から右期日に出頭すべき旨を記載した書面を受領した形跡は記録上全然窺うことができないから、結局原審は右公判期日においては、同辯護人を召喚しないで審理を爲し辯論を終結した違法あるものと認めるの外ない。尤も右期日において被告人は同辯護人の辯論を抛棄する旨の陳述を爲したことは前記の通りであるが、元來辯護人は刑事訴訟法上被告人に属する權利を行使する外、その獨自の立場において被告人の利益を擁護する固有の權利をも有するものであるから、前叙のような辯護人を召喚しないで審理した手續上の瑕疵は、單なる被告人の辯論抛棄の陳述によって治癒せられるものと解するを得ない。畢竟原審は不法に同辯護人の辯護権の行使を制限したことに歸着するから原判決はこの點において全部破毀を免かれない。よって被告人提出の上告趣意書に對する判斷を省略し、なお、右の違法は事実の確定に影響を及ぼすものであるから刑事訴訟法第四百四十八條の二によって主文の通り判決する。

以上は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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